この記事は2010年11月に掲載されたものです。
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舞台芸術の地域間格差の緩和こそ急務

カテゴリー: さくてき博多一本締め | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 高崎大志 です。

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荻野さんが書かれた劇場・音楽堂法への考察は、さすがに考えさせるものがあります。民間劇場への配慮など、この時期に考えるべきことは少なくないと再認識しています。

しかし、それでも私は、舞台芸術の地域間格差の緩和こそ急務であり、そのために劇場・音楽堂法の早期の成立を希望する立場です。

ほとんどの劇場・音楽堂法の議論は、大都市の演劇関係者からでてくる意見です。これは有識者のほとんどが大都市にいること、地域での制作専門職の少なさなどからやむを得ないと思います。

私が、早期に劇場・音楽堂法の成立を希望するのは、地域の演劇シーンは砂漠化がすすんでおり、早急な対策が必要と実感しているからです。この砂漠化は進めば進むほど回復が困難です。

私は、政令指定都市で人口が上から7番目の福岡市に拠点をおいていますが、その福岡市でさえ近年は劇団の旗揚げの数が減ってきている。九州の県庁所在地クラスでは、数年に1回旗揚げがあるかないかです。
これは、東京があらゆる才能を吸い上げる構造に起因します。もちろんこれまではその構造に合理性はあった。と、同時に東京にいる人でさえ、東京一極集中を疑問に感じるという時代になってきています。

劇場・音楽堂法で各地域に創造発信の拠点ができ、すぐれた表現者がその地域にやってくることは、地域の演劇シーンを活性化させます。頂上が高くなることは、裾野の広がりにつながります。その地域でがんばってきた優れた一部の表現者はこれまで可能性として認識することもなかった、舞台活動を職業にするという可能性を見出すことができます。

もちろん、すべての演劇人がそれで生計をたてられるわけではない。喰えるのは一部でしょう。しかし、喰えるという成功例があるのとないのとではまったく環境は変わってきます。このストーリーは今は限られた地域にしかありません。このストーリーを東京以外の地域でも可能にすることは大きな意義があります。
また大半の地域の劇団は、助成金とも縁がなくインデペンデントな活動をしており、強力な拠点ができてもこれといったデメリットはありません。むしろ、そういうクオリティの高い創造現場が身近にあることで刺激をうけ、一層いい芝居づくりに取り組んでくれると考えます。また、新たに演劇分野に入ってくる人材が、最初から高い目標が見える中で、この分野に入ってきてくれます。
この地域の演劇人の意識変革には20年はかかりません。その地域に拠点ができ3年で可能なことだと思います。

また、優秀な人材が東京からやってくることはあるでしょう。私はこれを、高度成長期を通じて人材を東京に吸い上げるシステムが改善されたことと前向きに受け取りたい。現在需要のないところに新しい需要ができるため、地域の人材を駆逐することにはなりません。地域の人材を活用しないという「うまくない」やり方を選ぶことは考えにくい。

もちろん東京の制作会社がそのまま、劇場の運営を担うような構造は望ましくないと言えます。地域のことは地域で考える、そのための人材づくりは、劇場・音楽堂法と並行して考えるべきです。
人材が最も育つのは、座学ではなく、担当者として実践の場を与えられることであり、そのためにも拠点となる場が必要です。

各論への課題の存在を認めるとしても、それ以上に重要で緊急を要する問題があることが、上記の文章で伝わることを願っています。