講談社現代新書の新刊『テレビアニメ魂』を読みました。「巨人の星」「アタックNo.1」「ムーミン」「ルパン三世」など、数々の名作アニメを生み出してきた東京ムービー(現・トムス・エンタテインメント東京ムービー事業本部)で学芸担当だった山崎敬之氏の回想録です。学芸というセクションはわかりにくいかも知れませんが、演劇でも最近話題になってきたドラマトゥルクのことです。日本ではヨーロッパに学ぶ機運が高いようですが、日本には世界に誇れるアニメという文化があるじゃないかと私は思うのですが、いかがでしょう。
出版社の編集者も学芸に近い役割だと思いますが、組織で制作する表現ジャンルで学芸というポジションが確立しているのは、日本ではアニメだけのはず。映画をはるかに上回る数のスタッフが参加し、分業で平行作業しなければ納期に間に合わないアニメの現場では、シリーズ全体に目配りして脚本家と現場の橋渡しをする学芸担当が創生期から必要だったのです。これまで監督、アニメーター、制作進行などの視点からアニメの舞台裏を綴った本はありましたが、学芸担当の方による手記はめずらしいと思います。
この本によると、放送内容を決定するスポンサー会議で脚本の説明をするのは学芸担当なんですね。各エピソードの方向性を示すのも学芸担当。コミックの原作があっても、アニメ化には学芸担当が欠かせないことも紹介されています。日本の演劇界では、制作者が事実上ドラマトゥルクの役割を担っていますし、私はそれを極めて制作者出身の専任ドラマトゥルクが誕生しても面白いと思っています。それだけのポテンシャルが有能な制作者にはあるはずです。
ちょっと事実誤認の箇所もあるようですが、学芸とはなにかを身近なアニメから知ることが出来る入門書としてご紹介しておきます。「巨人の星」のオーバーアクションは、新劇を崇拝する日芸演劇学科出身の長浜忠夫監督だからこそ生まれたという記述は、アニメで育った小劇場関係者として複雑な心境ではありますが。
アニメのプロデューサーに興味がある方は、本書でも全編に登場する東京ムービーの元社長・藤岡豊氏の壮大な失敗を描いた『リトル・ニモの野望』をどうぞ。「世間じゃ宮崎、高畑と、監督ばかり注目するが、苦労して金をかき集め、製作場所を確保したプロデューサーはどうなるんだ。おれにだって演出ぐらいできる」は、制作者として共感します。