この記事は2005年3月に掲載されたものです。
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劇団千年王國『SL』

カテゴリー: fringeのトピック以前 | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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東京国際芸術祭リージョナルシアター・シリーズで、札幌の劇団千年王國『SL』を拝見しました。これが初の東京公演となる彼らの高い志が、舞台全体から伝わってくる佳作だったと思います。

細かなテクニックで言いたいことはありますが、なにより大切なのは「やるならこの作品しかない」という絶対無二の作品を持ってきたことが、ひしひしと伝わったことです。『SL』は主宰の橋口幸絵氏による高校時代の処女作で、改訂を重ねてこれが3演目になるとのこと。橋口氏自身のルーツにも絡む内容は、千年王國の普段の公演スタイルとは異なるそうですが、それでも「この作品でダメなら悔いはない」という思いが具現化されていました。どのカンパニーにも絶対の自信作、最高の代表作というものがあるはずです。奇をてらわず、それをそのまま押し出したところに、私は高邁な精神を見ました。

終演後のポストパフォーマンストークにほとんどの観客が残ったことが、その感動を端的に伝えていると思います。司会を務めたアートネットワーク・ジャパンの蓮池奈緒子氏も、この場にいる観客の多さこそが作品への評価であると興奮気味に語っていました。単に一生懸命やるのとは次元が違う、自分の表現を出し切った者だけが味わえる達成感を、関係者は堪能していたのではないかと思います。自己陶酔ではない、澄み切った表現者のまなざしがそこにはありました。

初めての旅公演に絶対の自信作(もちろん再演以上)を持っていくのは本当に重要で、作品のクオリティはもちろん、制作的にも「後がない」というプレッシャーから背水の陣を敷かざるを得なくなります。初公演だから失敗してもいい、また挑戦すればいいというのは間違いで、初公演だからこそ自分たちが絶対に悔いのない作品をやるべきなのです(これは旗揚げ公演も同様)。観客は敏感にそれを察します。

ポストパフォーマンストークによると、東京公演は今後も継続していきたいとのこと。千年王國という名前は、千年後も語り継がれる物語を紡ぎたいとの気持ちからだそうです。今回の観客が次回はきっとクチコミで広めてくれるでしょう。観る人はちゃんと観ています。平均年齢26歳のまだ若い集団です。千年王國の今後に期待します。

サイトを拝見すると、普段の舞台美術に凝る作品群もかなり手が込んでいます。『ニライカナイ』では鉄砲水のような本水、『贋作者』の古美術小道具もやりますね。


劇団千年王國『SL』」への1件のフィードバック

  1. デジログからあなろぐ

    千年王國『SL』

    東京国際芸術祭リージョナルシアターシリーズの最後を飾る札幌の劇団千年王國の「SL」を鑑賞してきました。 まず始めにこの一言だけを言っておきたいのですが、素晴らしかったです。 物語もさることながら、演出、音響、照明、そんなスタッフワークのクオリティーの高さ…

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