この記事は2005年9月に掲載されたものです。
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東京のチケット代が高い理由

カテゴリー: fringeのトピック以前 | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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チケット代に関する議論が「さくてきブログ2」「某日観劇録」「#10の観劇インプレッション」で行なわれ、話題は「なぜ、東京の劇団の公演は福岡の公演よりチケット代が高いのか?」に移っています。

東京のチケットの平均価格が他地域を上回っているのは事実ですが、「東京だけが高い」というより、「他地域が人件費をあまり転嫁させていない」と表現したほうが正確だと私は思います。チケット代に地域差が生じる原因として、公共ホール・稽古場の有無や物価を挙げられていますが、逆に東京のほうが安いものも多数あります。適当な稽古場を確保するにはジプシーを余儀なくされますが、代わりに安くて網の目のような公共交通機関が発達していますし、激安の問屋街や専門店は東京のほうが充実しているでしょう。物の値段だけで考えると相殺される部分が多く、チケット代を変化させる大きな要因とは言えません。

チケット代を高くする最大の要因、それは人件費です。劇団員だけで上演する場合、ノーギャラにすれば人件費はかかりませんが、スタッフを外注したり客演を呼ぶと、当然ながらギャランティが発生します。相手をプロフェッショナルとして処遇しようと思えば、正規の額のギャランティが必要になり、それはチケット代に転嫁されます。東京のチケット代が他地域より高いのは、小劇場レベルでもプロフェッショナルの外部スタッフや客演にそれなりのギャランティを支払っているからだと思います。より専門性を求め、他地域なら外注しない部分の外注も進んでいます。例えば、宣伝美術は東京・京阪神は外注が一般的ですが、他地域ではまだ少数派だと思います。私はプロフェッショナルのグラフィックデザイナーに宣伝美術一式を依頼するなら15万円出したいと思いますが、動員1,000名のカンパニーでこれをやると、それだけで150円の転嫁が必要です。印刷費自体は全国で大差なくても、こうした人件費で差がつくわけです。

演劇の経費というのは、材料などの部分はよほど凝らない限り、そう変わるものではありません。地域差があるとも思いません。最初からコストダウンを命題にした公演でない限り、作品の質とは無関係に、どうしてもこれぐらいはかかるという金額があります。それを全額チケット代に転嫁させると割高感がありますので、助成金を得たり、物販で別収入を図ったり、劇団員が持ち出し覚悟でやるわけです。これはライブの宿命であって、ときどき映画のチケット代と比較する観客の方がいますが、全くナンセンスだと思います。

小劇場の場合、なんでもかんでもチケット代に転嫁してやろうとは、制作者は誰も考えていないと思います。外部の人件費はやむを得ませんが、劇団員に対するギャランティは東京のカンパニーでも計上しているところは稀だと思います。せめて事務所の維持費と劇団員の交通費・弁当代くらいは出したい、それくらいの気持ちでチケット代を設定しているはずです。例えば旅公演の場合、旅費・宿泊費・運送費などを料金に転嫁せず、本拠地と同じ料金で公演するカンパニーが多いのがその表われでしょう。私はこれは小劇場の良心だと思っています(泪目銀座や『ア・ラ・カルト』のような露骨な例もありましたが)。

私は東京のチケット代は決して高くないと思いますし、他地域のチケット代が安すぎるのだと思います。外部スタッフをどこまで使うか、その外部スタッフにプロフェッショナルとしての対価を出すかどうかが、大きな違いになっていると考えます。それは、その地域で演劇がビジネスとして成立するかどうかの試金石だと言えるでしょう。

以上、チケット代を経費面から述べてきましたが、もちろん#10さんが指摘されているとおり、そのチケット代に見合った価値があるかどうかは別問題です。当然ながら、この理論が通用するのは公演としての水準にある作品だけです。東京はカンパニーが多すぎます。その結果、猫も杓子も公演を打ち、発表会レベルの作品が玉石混交していることが観劇初心者の敷居の高さになっています。公演と発表会の差別化はfringeも取り組んでいきますが、観客の方も明らかにチケット代の価値がない公演に出会った場合、その集団を淘汰する行動(二度と行かない、公の場で批判する)を取っていただきたいと思います。


東京のチケット代が高い理由」への1件のフィードバック

  1. FPAP高崎の「さくてきブログ2」

    チケット代をしめるもの(fringeblogにトラックバック)

    シーマンも言ってましたが、「ものの値段は全て人間のマージン」らしいですからね。これによると、全てを人件費に依拠する考え方も成立するのかもしれませんね。ものの値段の決定方法は、専門の学者に言わせればいろいろあり複雑なのでしょうが、需要と供給の関係で決定す…

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