すっかり定番となったKAKUTAのリーディング公演「KAKUTA SOUND PLAY ANOTHER STYLE・朗読の夜」の第4弾、『神様の夜』が上演中です。全4プログラムを延べ16日間に渡って上演する、これまでの集大成のような企画ですが、そのうちCプロとDプロの初日に足を運びました。Cプロは完売ということで、狭い会場での客入れは定員を計算し尽くしたものになりましたが、その場内整理を担当したのが俳優の川本裕之氏でした。
出番の遅い俳優が場内整理を兼ねるのは小劇場ではめずらしくありませんが、川本氏の接客はホスピタリティにあふれ、熟練の専任制作者かと見紛うほどでした。ベンチシートに隙間なく座っていただかないといけないわけですが、さりげない誘導と不快感を抱かせない席詰め、手荷物への気遣いと足元照明への注意、どれも絶品でした。アクティングエリアに立った川本氏が場内に視線を向けているだけで安心感があり、「フロントスタッフがこんなに素敵なら、本編もきっと素晴らしいに違いない」と思わせる雰囲気が漂っていました。出演もする川本氏は、他の俳優と同じラフな服装でしたが、それが逆にギャラリースペースの公演にはよく似合っていました。
川本氏は少年社中初期の制作者を務め、舞台監督も出来る方です。客入れは当然慣れているのでしょうが、それだけではないオーラがありました。今回の朗読作品は、過去にも上演した川上弘美氏の短編集『神様』からで、くまが重要な登場人物になっています。くまを演じるのは初演と同じ川本氏で、その意味でホスト的な心境がにじみ出たのかも知れません。同じ会場を使った04年の公演は空調トラブルで大変だった記憶がありますが、その点が改善されたのもゆとりにつながったのでしょう。これほど信頼感のある場内整理に出会った記憶はちょっとありません。脱帽です。
作品のほうは、小劇場でもお馴染みになった麻生美代子氏に加え、志賀廣太郎氏(青年団)と後藤飛鳥さん(五反田団)が競演とのことで楽しみにしていましたが、川本氏だけでなくKAKUTA俳優陣全員に再演のゆとり、企画への自信のようなものが感じられ、完成度の高さに驚くばかりでした。今回は紗幕に投影する映像にゲストクリエーターを複数迎え、イメージをより増幅させるコラボレーションも実現していました。会場の都合さえつけば、本公演期間以外は毎日これをやっても観客は入るのではないかと思えるほどでした。リーディングと言っても演技も多く、普通の公演に近い感覚で観られるのが桑原裕子氏の演出です。小劇場ファンだけに見せるのが本当にもったいない。
川本氏は宣伝美術のデザイナーとしても知られており、KAKUTAだけでなく他のカンパニーも広く手掛けています。俳優のサイドビジネスの域を超えたプロフェッショナルな仕事を見せ、2006年佐藤佐吉賞優秀宣伝美術賞(無機王)も受賞しています。朗読シリーズのメインビジュアルが毎回同じ場所(下北沢駅横の陸橋)で撮られているのも印象的です。