この記事は2005年2月に掲載されたものです。
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せんだい演劇工房10-BOXの魅力

カテゴリー: fringeのトピック以前 | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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制作ワークショップで仙台市・せんだい演劇工房10-BOXを訪れました。

全国の稽古場施設を視察し、その「いいとこどり」で練り上げたというだけあって、理想的なハード・ソフトで運営されていると感じます。京都芸術センターのように全室無償というわけではありませんが、資料室やタタキ場の利用は無料で、戯曲や演劇雑誌が並ぶ資料室でも稽古が行なわれていました。資料室では稽古禁止という施設もあると思いますが、空いているならOKという柔軟な運営です。タタキ場は大道具製作会社のような充実ぶりで、11tトラックが着けられる設計。床はコンクリートのベタ基礎とコンパネで釘打ち可能。電源は天井からのぶら下がりにしているため、水を流すことも出来ます。数百円出せばパネルソーやジグソー、溶接機が使い放題で、完成したパネルは公演まで保管可能。ここには書けませんが、いろいろ奥の手があるようで、長期保管も相談出来るようです。材料もその場で売ってくれます。夢のようなタタキ場ではありませんか。

稽古場で有料公演が出来ない施設も少なくありませんが、10-BOXは全く問題ないようです。稽古場でのトライアウトも積極的で、観客を巻き込んだ使い方を施設側が推奨しています。最大のBOX-1は仮設客席も組めるようになっており、機材類も充実しています。10-BOXという名のとおり、10室から成る施設ですが、そのうち6室がロの字型の新築建物に収まっており、この館内図でおわかりのとおり、BOX-1で公演する際の間口が他のBOXでも簡単に取れ、各カンパニーは稽古過程に応じて小さいBOXから大きいBOXに場所を変えていくそうです。もちろん、これは施設側がコーディネートします。

残りの4室はこの場所に元からあった旧勤労青少年ホームを改造、経費を浮かすため体育館をスタッフ自らパネルで仕切り、水銀灯とコートのラインがそのまま残ったシュールな稽古場となっています。この俯瞰写真は新築の6室部分で、この奥のコンクリート建物内に4室があります。

10室中5室が本来の練習室で、24時間使えます。1室2週間の連続利用も可能で、これを3室まで続けられるので、公演前6週間は稽古に集中出来ます。しかも全日ではなく夜間だけ借りても「串刺し連続使用」と認められ、装置や衣裳を置いたままでいいそうです。料金表の「延長」は1時間単位でなく、区分でこの料金。ぜひ「合宿稽古」したくなりませんか。

昨年11月に仙台の演劇環境を取材した福岡・NPO法人FPAPの高崎大志氏が、サイトにリポートを掲載されています。この中で10-BOXについても書かれていますが、研修を受ければ宿泊可能だそうです。勤労青少年ホーム時代の寝袋もあるそうで、旧体育館のシャワー室はお湯も出ます。ここで旅公演が完結するのはもちろんですが、アーティスト・イン・レジデンス施設としても使えるわけです。

制作室(BOX-8)にあるピンクのチラシ棚(下駄箱を転用)は、東京ならこまばアゴラ劇場で見られる、好きなときに折り込んでいくシステムですが、ここは10-BOXだけでなく仙台圏の全公演が対象です。驚くべきことに、この棚は仙台演劇ネットワークが設置しているもので、10-BOXのものではありません。ちょっと厳しい施設なら「目的外使用」でしょう。小劇場系だけでなく、地元テレビの事業局も折り込みに来るそうです。

10-BOXがある卸町(おろしまち)は仙台市の倉庫街で、他都市のように空き倉庫を改造してアートな空間に転用する動きがあります。アサヒ・アート・フェスティバル2004「倉庫のまちで逢いましょう」もその一つで、音楽スタジオも新たにつくられました。街全体が変わっていく可能性を秘めているわけで、10-BOXを拠点にかなりの表現が出来るのではないかと感じます。地元協同組合が推進するサイン計画も、通常の住居表示板とは一味違う趣です。

ネックは、現在アクセスがバスと車しかないことですが(最寄駅から徒歩約25分)、そういう施設は他都市にもありますし、平成27年度開業予定の地下鉄東西線が通ると、「卸町駅」が出来て完全無欠の施設になることでしょう。10年後はなかなか取れない人気施設になっている可能性大ですので、ぜひいまから志あるカンパニーは仙台公演を計画されてはいかがでしょう。高崎氏は「東京までの新幹線で2時間半」と書かれていますが、これは「やまびこ」の場合で、「はやて」なら1時間40分です。名古屋より近いのです。

もう一つ、公演費用を抑える強力な味方として、高崎氏も書かれている「あべひげ」という居酒屋があります。ここはすごかった。料理はマスターのお任せ、酒は客が冷蔵庫から出し、伝票は全くつけない。閉店は一応午前0時で、バイトの子もその時間に帰るのですが、客はそのまま残っても構いません。マスターが店の隅で寝たあとは、客が厨房に入って自分たちで料理をつくる。食材が切れたら、勝手にレジから金を出して買ってきてもいいそうで(本当?)、私が連れていってもらった日も、0時を過ぎてから訪れるグループがいました。店のシャッターも勝手に開けていいそうで、店という概念を超え、一種の共同体のような雰囲気さえ漂います。様々なオブジェが並ぶ店内はヴィレッジヴァンガードのようで、ここで芝居を打つこともあるとか。演劇人が好き放題にする店は全国にありますが、ここまで自由なところはちょっとないのでは。打ち上げはここしか考えられません。

10-BOXを支えるスタッフの才能は想像に難くないと思います。技術面に加えて芸術面にも造詣が深い小屋付きの方が、会館管理では立場上どうしても制約に縛られてしまうところを、ここでは自由に理想の姿を追求出来るわけです。まだオープン3年に満たない施設で、これからの展開が本当に楽しみです。


せんだい演劇工房10-BOXの魅力」への3件のフィードバック

  1. 庄司薫子

    せんだい演劇工房10-BOX庄司薫子です。
    今回は10-BOXのことを詳しくご説明いただきありがとうございます。
    少々、まぎらわしかった部分を訂正させてください。
    「串刺し連続」利用時の装置や衣裳の保管場所については、稽古場ではなく、他の場所を提供しておりました。また、全区分(午前・午後・夜間)使用での利用であれば、装置や衣裳を置いておくために延長区分を申し込む必要はありません。
    ちょっとややこしいかもしれませんが、状況に応じて随時スタッフが相談にのりますので、気軽にお問合せください。
    また、利用案内パンフレットには書いていませんが無料貸出・利用できるものもいろいろあります。(例えば、MD/CDラジカセ、ナグリセット、茶器類、ポット、一升炊き炊飯器2台、調理器具、洗濯機等々)。
    10-BOXを長期利用したいとお考えの方、ちょっとだけ利用したい方も、ご連絡ください。
    それから、行ったことのない方にはとても気になるであろう「あべひげ」についても少し。
    常連は初めての方には嬉しくてつい大げさに「あべひげ」を紹介してしまうのですが、勝手に客が料理を作ったり、レジからお金を持っていってお買い物というのは冗談です。バイトの方が残業していて「ホントはもうお客になってもいい時間なのに台所で作ってるよ」ということだったり、ソフトドリンクがきれて、マスターがレジからお金を出してコンビニで買ってきてと頼むことだったり。いずれにせよ、愛情を持って迎えてくれるマスターに甘えて自由にさせてもらってる感じは、多いにありますけど。
    仙台へお寄りの際はぜひ「あべひげ」へ。ちなみに、マスターは人見知りの面もありますから、積極的にお声掛けください。平日はランチもやっていて、おすすめです。安くておいしくて満腹になりますよ。

  2. ■いのちの洗濯劇場ブログ■

    制作ワークショップ

    5,6日両日せんだい演劇工房10-BOXで行われた制作ワークショップに参加しました。 講師はfringeの荻野達也氏。fringeはブックマークに入れて時々見させて頂いていました。芝居の制作で悩むたびに。 このワークショップ行って良かったと思います。 自分がどの位置にいる…

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