この記事は2007年10月に掲載されたものです。
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小説を出版する劇作家たちへ

カテゴリー: fringeのトピック以前 | 投稿日: | 投稿者:

●「fringe blog」は複数の筆者による執筆です。本記事の筆者は 荻野達也 です。

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いま、小劇場ブームだと言われます。映像作品で小劇場系俳優の活躍が目立ち、芸能プロダクションが演劇制作に力を入れ、雑誌で数々の特集が組まれ、劇作家が小説を書いて文学賞の候補になっているからでしょう。けれど、これってブームなんでしょうか。他ジャンルが小劇場界を利用しているだけではありませんか。本当の意味の小劇場ブームは、劇場に足を運ぶ観客が増え、それに伴って公演期間が長期化し、カンパニーが芝居だけで食えることを指すわけで、劇場自体が活性化しない限り、ブームなんて言葉を私は使うべきではないと思います。

ブームは終焉を迎えるからこそブームなのです。ブームと呼んでいるうちはダメなのです。仕事帰りに映画館に寄ることはあたりまえで、それを映画ブームなんて呼ぶ人はいないでしょう。仕事帰りに劇場にあたりまえに通う世の中を目指している私たちにとって、小劇場ブームという言葉に踊らされず、明確なビジョンを持って未来を見つめることが重要だと考えます。これぐらいのブームは、過去に何回もありました。ブームと呼んでいるうちはダメなのです。

他ジャンルに利用されているだけのブームでも、逆利用することは出来ます。他ジャンルに接する人々に舞台の魅力を伝え、劇場に足を運ぶきっかけにすることです。ですから、他ジャンルで活躍する場合も、そのジャンルだけで閉じていてはダメなのです。それだと本当に小劇場界は他ジャンルへの人材供給源、才能の草刈場で終わってしまう。メディアを通じての接触だけで満足し、わざわざ劇場へ行こうとは思わない。劇場へ足を運ばせるためには、演劇人の自覚的な行動がもっと必要だと思います。

俳優なら取材を受ける際に劇場の魅力を少しでも語ってほしいし、劇作家が小説を出版するなら、最低あとがきを付けて演劇の魅力を綴ってほしいと思います。あとがきのある小説は少ないですが、書いてはいけないというルールはありません。新人作家がどうしてもあとがきを書きたくて、編集者に了承してもらった話も耳にします。特に戯曲を小説化する場合は、その元になった演劇世界へあとがきで誘うべきだと思います。

出来れば公演案内のしおりやチラシを自費で印刷し、初版本に挟み込んでもらいたい。純文学の初版部数くらいなら、印刷費はわずかだと思います。あとは出版社の対応次第ですが、自分たちが育った小劇場界に恩返ししたいと真摯に訴えれば、耳を傾けてくれるのではないでしょうか。演劇と小説は別の表現だから関係ないという態度はおかしいと思います。作家になるために小劇場界を利用したのではないのなら、どうしたら劇場に観客を呼べるのかを、劇作家も常に意識すべきです。

この文章は、雑誌が小劇場特集を組む先鞭となった『ユリイカ』2005年7月号「この小劇場を観よ!」のころからずっと考えていたことです。ブームの渦中にいる若手主宰者が思いを語るのはいいけれど、それだけでは絶対に観劇人口は増えないし、居酒屋座談会で編集部が語った「十年後はこの皆さんで大劇場特集を」は能天気すぎると思いました。いまの小劇場ブームは他ジャンルの力を借りているだけで、実態は20年前とあまり変わらないと思います。すべての演劇人が、観劇人口を増やすことを考えなければならないのです。